依頼者さんから嬉しそうなお電話を頂きました。
「相続放棄が認められたみたいなんです。」と。
裁判所から封書が届いて恐る恐る開けてみたそうです。「申述が受理されました」と書いてあります、と。
半信半疑で、弊所にFAXをしてきました。
見てみますと、間違いなく「相続放棄申述受理通知書」です。
話は3か月ほど前に遡ります。
以前10年ほど動かせなかった遺産承継業務を1年ほどかけて解決した案件がありました。今度の依頼者さんはその奥様でした。
内容は、お父様が1年ほど前に亡くなったんだけれど、最近長男さんから遺産分割協議書(案)が送られてきたそうです。
中身を見ると、数千万円の借金があることが判明。とはいえ、ご実家は個人経営、金融機関からの借り入れがあることは不自然ではありません。その借り入れも実家を継いでいる長男さんが引き受けるという内容でした。
奥様は嫁いで家を出た以上そういうことには従うべきだと考えたそうで、それに応じる方向で話を進めるつもりでした。
しかし、ここで重要なポイントがあります。
まずは、大前提ですが、借金も相続の対象になります。
そして、遺産分割協議書に相続人のお一人が引き継ぐと書かれていたとしても、基本何の意味もありません、ということ。
何も意味はないというのは言い過ぎかもしれませんが、借金の引継ぎは債権者(金融機関)の承諾がなければ、債権者は全相続人に請求できる権利を有しているのです。
債権者が承諾してくれれば問題ありませんが、借金を負うことを安心して回避するためには相続放棄しかありません。
相続放棄とは、家庭裁判所に申述し受理されて初めて認められるものです。
つまり、奥様は長男さんの今後の事業経営を信頼するしかないという立場にあり続けるということです。
とても心配です。
じゃあ、相続放棄すればいいじゃん!
話はそう簡単ではありません。
相続放棄の条文(民法915条)を見てみましょう。
「相続人は、自己のために相続の開始があつたことを知つた時から3箇月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」
相続放棄は3か月以内にしないといけない、と読めます。
お父様が亡くなったのは1年以上前です。
ここで条文をよーく見てみます。よーく。
「自己のために相続の開始があつたことを知つた時から3箇月以内」とあり、亡くなってから3か月以内となっていない。
ゆえに、”借金を知ってから3か月以内”というのが司法書士(少なくとも私)の感覚。
それで、相続放棄の申述をしてみましょう、と奥様に提案。
ご自身の嫁ぎ先も個人事業をされており、ご主人もお兄様を信頼していいんじゃないか?とも思いながら、借り入れの大きさに出来る事なら相続放棄したいと考えるようになりました。
相続放棄の申述は、亡くなってから3か月以内であればほぼ無条件に(言い過ぎ?)認められます。
しかし、亡くなってから3か月を過ぎていると、詳しい事情説明や裏付ける添付書類が必要になってきます。
その辺を詳しく記載して相続放棄申述書を作成し郵送。
管轄裁判所はお父様が亡くなった住所地を管轄する家庭裁判所。今回は隣県。
書類作成代理人が司法書士と分かるようにしておけば、基本司法書士事務所に連絡がきます。
しばらくして、裁判所から来た回答は驚くものでした。
連絡者は書記官で、担当裁判官は、却下の心象を持っている。このまま進めても却下される可能性が高いので、取り下げてはどうか?というもの。
裁判所からこのような連絡があるのは初めてでした。
詳しく言えることと言えないことがあるでしょうが、その理由を何となく伝えてきました。言いたかったのは、3か月以内にあなたも借金の存在も知り得たんじゃないの?ということらしい。
相続放棄は申述すると、そのあと、裁判所から本人のところに照会書が届きます。本人の意思で申述しているかの確認が主なんですが、今回のように亡くなってから3か月が過ぎていると詳しく事情を聞かれるんですが、その回答の書きぶりに問題があったのでしょうか?
納得いくものではなかったが、奥様にもその旨を伝える。
書記官の言葉に従って取り下げるしかないのか?と思いながらもしばらく保留。
取り下げたところで再度申述書を提出することは事実上不可能です。
最終手段として、裁判官に「審尋」申立ての上申書を提出。
裁判官の面前で尋問を受けるのである。事情を直接説明するわけです。先の書きぶりで事実誤認があってはいけません。
その審尋が今週初め。
そして、最初の嬉しそうなお電話に繋がったというわけ。
私も本当にホッとしました。
さて、この案件から学ぶべきことは
① 相続放棄の3か月の判断は一人でしないで、必ず司法書士に相談すること。
② 借金が分かってから3か月と考えていいが、出来るなら亡くなってから3か月以内に申述すること。(ちなみにこの3か月は延期できますがこれも家庭裁判所への申述が必要)
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