えっ? 中国に帰って公証令を取り直してこい?

2024年2月2日

昨年の11月末、これまで何度かお仕事をさせて頂いた中国人の社長さんから連絡がありました。

 

「中国人の知人で日本で会社設立をしたいのだけれど、近くの司法書士さんに断られたので相談にのって欲しい」というものでした。

 

社長さんの会社で相談者さんと面談。

 

その方は短期のビザで来日しており、6か月ほど前に取得した公証令を持っている。公証令は捺印も署名もあるので、日本の印鑑証明やサイン証明の役割を担う。

 

短期なので日本に住所はなく、日本の印鑑証明は取れない状況。

 

デジャヴ? 同じような案件を半年ほど前に経験している。

 

何でお近くの司法書士さんは断ったのだろう?と思いながら、自信をもって引き受ける。

 

年明けには一旦中国に帰る予定なので何とか12月中に完了させて欲しいというタイムリミット付。

 

以前、印鑑届に添付するサイン証明は3か月以内でないといけないと最寄り法務局で言われたので、来日中の依頼者に日本の公証役場に行ってもらい、印鑑届と就任承諾書に公証人の面前で署名させ、それを認証したものを印鑑証明の代わりとしたのだ。

 

それにはもちろん根拠がある。法務省が出している通達である(平成28年6月28日付け法務省民商第100号民事局長通達法務局長,地方法務局長宛て・改正 平成29年2月10日法務省民商第15号)。

 

タイトルは「登記の申請書に押印すべき者が外国人であり,その者の印鑑につき市町村長の作成した証明書を添付することができない場合等の取扱いについて(通達)」である。

 

長いけど誤りがないように。

 

『第3 日本の公証人等の作成した証明書
外国人の署名につき本国官憲の作成した証明書の添付をもって,市町村長の作成した印鑑証明書の添付に代えることができる場合において,当該外国人の本国の法制上の理由等のやむを得ない事情から,当該署名が本人のものであることの本国官憲の作成した証明書を取得することができないときは,その旨の登記の申請書に押印すべき者の作成した上申書及び当該署名が本人のものであることの日本の公証人又は当該外国人が現に居住している国の官憲の作成した証明書の添付をもって,市町村長の作成した印鑑証明書の添付に代えることができる。

なお,署名が本人のものであることの証明書を日本における領事若しくは日本における権限がある官憲が発行していないため当該証明書を取得することができない場合又は日本に当該外国人の本国官憲がない場合には,日本以外の国における本国官憲において当該証明書を取得することが可能であっても,やむを得ない事情があるものとして取り扱ってよい。』

 

要約するとこうだ。

 

外国人のサイン証明の添付によって印鑑証明の添付に代えることができる場合において、その外国人の本国の法制上の理由等のやむを得ない事情からサイン証明を取得できないときは、日本の公証人が作成したサイン証明の添付をもって印鑑証明の添付にかえることができる。

なお、サイン証明を日本国内の領事館が発行していないためサイン証明を取得できない場合はやむを得ない事情があるものと扱ってよい。と。

 

ここで今回の中国人の依頼者さんにあてはめてみよう。うちの解釈ね。

 

日本にある中国の領事館はサイン証明を発行していない。つまり、依頼者は中国の法制上の理由でやむを得ない事情からサイン証明を取得できないときにあたるので日本の公証人が作成したサイン証明を印鑑証明の代わりに添付することができる。

 

この解釈には自信があった。

 

が、申請して数日後。管轄法務局(隣県)から連絡。

 

「本国官憲が発行したサイン証明を提出してください」と。

 

????????

 

「平成28年(29年)の通達に従って申請していますよ」と私。

 

「中国は領事館でサイン証明を発行しているでしょう」と法務局。

 

「領事館が発行しているサイン証明は、日本に住所を有する中国人が中国政府に提出する場合のもので、日本政府(法務局)に商業登記に添付するようなサイン証明は発行していませんよ」と私。

 

ここから数日に渡って平行線の攻防。

 

法務局は頑として、中国はサイン証明を発行していると解釈するので法制上の理由つまりやむを得ない事情にあたらないと譲らない。

 

全く理解できないので、頭がくらくら。

 

「じゃあ、中国に帰って公証令(サイン証明)を取って来いってことですか?」私

 

「そうなりますね」法務局

 

「論理矛盾していないですか?領事館でサイン証明を発行していると言うなら、日本の中国領事館でサイン証明を取ってきなさいとなぜ言わないのですか?」私。

 

・・・・・・・

 

答えない。

 

「これは、〇〇法務局の考えですか? 登記官に代わってください」

 

登記官に代わっても答えは変わらない。できなければ却下するとさえ言ってきている。

 

こちらとしては解釈に自信があるので却下してもらっても構わない。取り下げるくらいなら却下してもらって理由を明示し跡を残して欲しい。

 

ただ、

 

それって依頼者さんにとっては何の利益もないんですよね。

 

登記官は自身の解釈については絶対に折れず、出してきた提案はこうだ。

 

この案件、弊所に相談に来た時点で、公証令は3か月の期限を切れていた。が、この3か月という期限があるという点には争いがあって、以前金沢法務局で問題になった。金沢法務局で期限ありという解釈をしたが、今回の法務局は期限なしという解釈をとるというのだ。

 

つまり、随分前の公証令で構わないからそちらを添付してくれれば登記は通すよとという提案をしてきた。

 

私としては先の解釈を貫きたいところだが、依頼者さんは12月まで完了させてほしいというご要望。

 

私のちっぽけなプライドに固執しても意味はない。で、仕方なく、この公証令を提出すると登記はその日に完了。

 

12月27日。

 

法務局は12月28日までだったので、ぎりぎり依頼者さんの要望に応えることができた。

 

法務局って国家機関ですよね。本来法務局ごとに解釈がまちまちであってはいけないと思うんですよね。そのための通達かなって思うんですが。

 

長い長いブログになっちゃった。

 

 

~石川県金沢市の司法書士が繋ぐ中国人の会社設立ブログ~

サイン証明の有効期限

2023年4月18日

商業登記において印鑑証明書というのは結構悩みどころ。

 

先日、中国在住の中国人の方が発起人になる会社設立登記が完了しました。

 

経営ビザを取得申請代理している行政書士先生からのご紹介です。

 

株式会社(取締役会非設置)設立にあたって、印鑑証明書が必要な場面は、発起人による定款認証時と取締役の就任承諾書と代表取締役の印鑑届だ。

 

中国在住なので印鑑証明書は取れません。

 

中国の場合は、中国の公証令で、印鑑を公証してもらうことができる。そこには中国の住所も記載でき、日本の印鑑証明書と同じ扱いとすることができる。

 

したがって、この公証令で、無事、定款認証を終えることができた。

 

ここで、思いがけないことが発生。

 

発起人による資本金払込(中国と日本の間ではちょっとあるようだ)に手間取り、公証令を取得してから3か月が経ってしまった、と行政書士先生から連絡。

 

「登記において、この公証令に印鑑証明書同様3か月の制限はありますか?」と。

 

・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

直感的には制限ありだろう、と思う。

 

他の司法書士のブログを覗いてみると、いけそうなようなことも書かれていたり。

 

明確な書籍もなかったので、法務局に照会。

 

結論は、3か月以内、とのこと。少なくとも金沢法務局では。

 

改めて中国で取り直している暇はない、来日予定が迫っている、と。なら次善策。

 

来日中に日本の公証役場に行ってもらう。

 

いわゆる、私署証書の認証である。印鑑届と就任承諾書を用意し、公証人の面前でサインしてもらうのである。住所が記載されている公的文書(パスポートに記載されていればそれでよし)を持参。

 

公証人の認証付の印鑑届と就任承諾書を印鑑証明書付の印鑑届と就任承諾書の代用とする。

 

ちなみに、就任承諾書に付ける印鑑証明書に3か月の制限はありません。つまり、3か月を超えた公証令でもいいってことだよね。

 

 

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