とある金融機関さん。目の前には支店長さん。
「ですから、この解約依頼書に相続人さん全員の実印が必要なんです。」と
「確かに、各金融機関さんには同様な書類がありますけど、金融機関さんの数だけ全員に押印頂くと大変でしょう。そのために遺産分割協議書に押印頂いているんですよ。」
机の上には、遺産分割協議書と各相続人の印鑑証明書、法定相続証明情報と遺産承継の委任状が並んでいる。
出来るだけ冷静な顔をして、説明を続ける。
「せめて、本人さん(依頼者さん)の署名・実印が必要です。」と、譲らない。
署名・実印を求めている文章を読むと、ほぼ同じ内容のことが遺産承継の委任状に書かれている。
「このことは委任状に書かれているでしょう?ここに」と指さしながら説明。
「うちはずっとこれでやってきてますから。こんなやり方やったことありません、初めてですよ。」と紅潮した顔。
「むしろそのことが驚きです。他の金融機関さんは全てこれでご対応頂けていますよ」
私のこの言葉はちょっとずるい。
内容は事実なのだが、相手を追い込む。
遺産承継のプロである司法書士が、少なくともそういう顔をした司法書士が、他の金融機関さんは、なんて言ったら、自分が間違ってるのでは?と恐怖に陥れる。
間違ってるんだけど、支店長さんという立場もあるしね。
言葉を続ける。
「私、無理言ってるわけじゃないんです。初めてかもしれませんが、御社もこれからそうすべきだと思うんですよ、お客さんのためにも。お客さんがご負担にならない方法を選択した方がいいと思うんですよ。」
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「急に来られて、そのようなことを言われましても」
「急いでる訳ではありませんので、ご検討頂けませんか?」と、お店を後にする。
事務所に戻ると、先ほどの支店長さんから電話
「先生の署名と実印で大丈夫です。」
「ありがとうございます。後ほど伺います。」
世の中には、何でこの書類要るんだろう? 何で印鑑いるんだろう?ってのがまだまだ沢山あります。
面倒くさい、がまだまだあります。
司法書士含め代理業は、世の中の面倒くさいのためにあるんだな。自分でやるには面倒くさい。面倒くさいシステムになってるから。
皮肉なことに、依頼者さんは、この金融機関さんを訪れ、自分ではとてもじゃないけど相続口座の解約はムリと判断されて、うちに来られました。
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