僕ら司法書士は代書屋と呼ばれていた時代があります。
代わりに書類を作るだけの人くらいのニュアンスがあるからなのか、ベテラン司法書士に言うと気を悪くされるかもしれないので、お気をつけ下さい。
確かに、書類を作成する技術は他より長けていると思います。
が、気を悪くするのは、書類を作成する前提として、そのような法律行為があったのか?そんな事実があったのか?という実体を見ている、そこが重要なのだよということの自負があるからです。
そんなことを思い起こさせる案件が続きました。どちらも遺産分割協議書について。
つい昨日、行政書士の先生がご自身で作成した遺産分割協議書を使用して相続登記をして欲しいというご依頼を受けました。
書類を預かる際、気になっていることがあってという前置きで、この中の一筆の土地がどうも生前に売買されていたみたいなんです(登記はしてないけど)、どうしたらいいですか?という質問。
ここで立ち止まれるのは、さすがです。
遺産分割協議というのは、遺産を分ける話し合いです。
生前に売買されていた土地は既に遺産ではないのですから、遺産を分けるという前提が崩れているんですね。
であれば、その土地は相続登記すべきではないっていう結論になります。
なお、知らずに相続登記をしてしまった場合、本来間違った相続登記をやり直して売買の登記をすべきとなりそうですが、相続登記をしてしまった人を登記義務者として売買の登記をしていいよという先例があります。
知らなかったなら仕方ないよね、最終的に今の権利者のところに移るならいいよっていう価値判断かな?
でも知ってたならすべきでない。
実体は、既に遺産じゃないんだから。僕らは代書屋じゃないんだから。
もう1つは、説明しやすくするため、AB夫婦にCDという子どもがいる家族で、Aが先に亡くなり数年後にBが亡くなったというケース。
Bが亡くなる前の日付で、Bが参加したような、しかもBが押印する遺産分割協議書は作れないのか?という質問というかお願いというのかがあった。
もう一度言うが、遺産分割協議は遺産を分ける話し合いである。
遺産分割協議書はその話し合い(法律行為・意思表示)の結果をまとめた書類である。
Bが既にこの世にいない今、Bがどのような意思表示をしたか分からない今、そんな遺産分割協議書は作れません、作るべきではないということでお断りさせて頂きました。
ましてBの印鑑を押すなんて怖いですね。
僕らは代書屋ではないんだから。
作る技術があっても、作ってはいけない、作るべきではない書類ってあるものです。
不動産登記法という法律は手続法です。
僕ら司法書士が気にするのは、まずその前提となる民法(実体法)なんですね。
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