「〇〇さんの相続登記完了しました」と、司法書士くん。
「勝った!」
司法書士くんと目が合って大笑いする。
昨年末受任した相続登記の件だ。
相談を受けたとき、
「お恥ずかしながら、ずっと相続登記をしていなくて。近いうち相続登記って義務化されるんでしょう? 息子たちには迷惑かけたくないんです。」と。
まずは、戸籍調査と名寄帳からの登記簿調査。
依頼者さんご自身が80代。お父様は太平洋戦争で亡くなり、未成年で戸主になっていた。登記簿を見ると、その亡くなったお父様名義のものと、曽祖父様のもの。
なんと取得できた除籍謄本はお父様戸主時代の1枚だけ。祖父様のもの、曽祖父様のものは1枚も取得できず。
理由は古すぎるということもあるが、この自治体の庁舎は火災にあったため取得できない部分があるのだ。
依頼者さんは早くから家督相続しているので、お父様の相続登記は簡単にできた。取得した除籍謄本だけで。
問題は、曽祖父様の相続登記。あまりに戸籍がないのだ。つまり、祖父様戸主時代の戸籍はゼロ、曽祖父様戸主時代の戸籍もゼロ。
ただし、お父様戸主時代のたった1枚の除籍謄本に曾祖母様の欄があり、夫である曽祖父様がいつなくなったかの記載があった。
戸籍が取得できない以上、市役所が出す廃棄証明書を付けるは当然。古すぎて住所記載もないので名寄帳も付ける。相続可能であることの見解を示した上申書も添える。
除籍等が一部滅失していることにより謄本を提供できないときは、残存する戸籍等プラス廃棄証明書を付ければ相続登記をしてよいという先例の存在(平成28年3月11日)。
さあ、これだけで登記は通るのか?
正直だめかも?と思いながら申請(法務局側でこれとこれを補って的な指示がくればいいなとおもいながら)。
案の定、数日後、法務局から連絡。司法書士くんが聴く。
長く話をした後、受話器を置いて私に説明する司法書士くん。
「これでは登記通せません。他に相続人がいる可能性がゼロではないですから。他の先生は相続人を確定する裁判をしているそうです。」と。
申請時点で自信がなかったので、渋々取り下げる。
数日後、戻ってきた戸籍とにらめっこする私。たぶん、かなりいらいら。
えっ? いや、私が見る限り他に相続人がいる可能性はゼロだろ。相続人を確定する裁判って何? 登記官を納得させられる書面を提出できないのに、裁判官を納得させられる書面(証拠)って何? そもそもその裁判って司法書士は代理人になれないよね? 今回は田舎の山林で評価額が低く、訴訟費用をかけるなんて正直あり得ない。
最初からそうすればよかったのだが、事務所にある相続の書籍をデスクに積み上げる。登記できるでしょと自信が湧いてきた。
そして、改めて、上申書を作成する。
この間、廃棄証明書を出した市役所に電話。廃棄証明書に戸主氏名〇〇(曾祖父様や祖父様)とあるけど、市役所としてはこれって戸主であったことも証明しているの?と(廃棄したということしか証明していないと私は思っていた。)
「はい、その通りです。」
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・・・・・・・・・
「えっ? そうなんですか」と驚く私。(今でもあまり信じていない)
その旨も上申書に加える。曾祖父様と祖父様様は戸主であって、本籍地も同じであるから曾祖父様→祖父様→お父様→依頼者さんと家督相続しているはず、と。残存する戸籍から祖父様が唯一の第一種法定家督相続人なんだから登記してよいはず、と。
申請後、やはり法務局から連絡。
今回は前回と若干トーンが違う。法務局としても昨今の傾向からできるだけ相続登記をする流れにあります。登記官によっては登記できると判断する登記官もいると思います。私(支局の登記官)としては、本局の意見も聴いてみたいので時間を下さいとのこと。
1週間ほどの後。
登記しますという回答の後、先の登記完了メール。
「勝った!!」
登記官にではないですよ。何かに勝ったような気がしました。
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