亡くなってから1年以上が過ぎた相続放棄の可否

2021年7月1日

依頼者さんから嬉しそうなお電話を頂きました。

 

「相続放棄が認められたみたいなんです。」と。

 

裁判所から封書が届いて恐る恐る開けてみたそうです。「申述が受理されました」と書いてあります、と。

 

半信半疑で、弊所にFAXをしてきました。

 

見てみますと、間違いなく「相続放棄申述受理通知書」です。

 

 

話は3か月ほど前に遡ります。

 

以前10年ほど動かせなかった遺産承継業務を1年ほどかけて解決した案件がありました。今度の依頼者さんはその奥様でした。

 

内容は、お父様が1年ほど前に亡くなったんだけれど、最近長男さんから遺産分割協議書(案)が送られてきたそうです。

 

中身を見ると、数千万円の借金があることが判明。とはいえ、ご実家は個人経営、金融機関からの借り入れがあることは不自然ではありません。その借り入れも実家を継いでいる長男さんが引き受けるという内容でした。

 

奥様は嫁いで家を出た以上そういうことには従うべきだと考えたそうで、それに応じる方向で話を進めるつもりでした。

 

しかし、ここで重要なポイントがあります。

 

まずは、大前提ですが、借金も相続の対象になります。

 

そして、遺産分割協議書に相続人のお一人が引き継ぐと書かれていたとしても、基本何の意味もありません、ということ。

 

何も意味はないというのは言い過ぎかもしれませんが、借金の引継ぎは債権者(金融機関)の承諾がなければ、債権者は全相続人に請求できる権利を有しているのです。

 

債権者が承諾してくれれば問題ありませんが、借金を負うことを安心して回避するためには相続放棄しかありません。

 

相続放棄とは、家庭裁判所に申述し受理されて初めて認められるものです。

 

つまり、奥様は長男さんの今後の事業経営を信頼するしかないという立場にあり続けるということです。

 

とても心配です。

 

 

 

じゃあ、相続放棄すればいいじゃん!

 

話はそう簡単ではありません。

 

相続放棄の条文(民法915条)を見てみましょう。

 

「相続人は、自己のために相続の開始があつたことを知つた時から3箇月以内に、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。」

 

相続放棄は3か月以内にしないといけない、と読めます。

 

お父様が亡くなったのは1年以上前です。

 

ここで条文をよーく見てみます。よーく。

 

「自己のために相続の開始があつたことを知つた時から3箇月以内」とあり、亡くなってから3か月以内となっていない。

 

ゆえに、”借金を知ってから3か月以内”というのが司法書士(少なくとも私)の感覚。

 

それで、相続放棄の申述をしてみましょう、と奥様に提案。

 

ご自身の嫁ぎ先も個人事業をされており、ご主人もお兄様を信頼していいんじゃないか?とも思いながら、借り入れの大きさに出来る事なら相続放棄したいと考えるようになりました。

 

相続放棄の申述は、亡くなってから3か月以内であればほぼ無条件に(言い過ぎ?)認められます。

 

しかし、亡くなってから3か月を過ぎていると、詳しい事情説明や裏付ける添付書類が必要になってきます。

 

その辺を詳しく記載して相続放棄申述書を作成し郵送。

 

管轄裁判所はお父様が亡くなった住所地を管轄する家庭裁判所。今回は隣県。

 

書類作成代理人が司法書士と分かるようにしておけば、基本司法書士事務所に連絡がきます。

 

しばらくして、裁判所から来た回答は驚くものでした。

 

連絡者は書記官で、担当裁判官は、却下の心象を持っている。このまま進めても却下される可能性が高いので、取り下げてはどうか?というもの。

 

裁判所からこのような連絡があるのは初めてでした。

 

詳しく言えることと言えないことがあるでしょうが、その理由を何となく伝えてきました。言いたかったのは、3か月以内にあなたも借金の存在も知り得たんじゃないの?ということらしい。

 

相続放棄は申述すると、そのあと、裁判所から本人のところに照会書が届きます。本人の意思で申述しているかの確認が主なんですが、今回のように亡くなってから3か月が過ぎていると詳しく事情を聞かれるんですが、その回答の書きぶりに問題があったのでしょうか?

 

 

 

納得いくものではなかったが、奥様にもその旨を伝える。

 

書記官の言葉に従って取り下げるしかないのか?と思いながらもしばらく保留。

 

取り下げたところで再度申述書を提出することは事実上不可能です。

 

最終手段として、裁判官に「審尋」申立ての上申書を提出。

 

裁判官の面前で尋問を受けるのである。事情を直接説明するわけです。先の書きぶりで事実誤認があってはいけません。

 

その審尋が今週初め。

 

そして、最初の嬉しそうなお電話に繋がったというわけ。

 

私も本当にホッとしました。

 

 

 

さて、この案件から学ぶべきことは

 

① 相続放棄の3か月の判断は一人でしないで、必ず司法書士に相談すること。

② 借金が分かってから3か月と考えていいが、出来るなら亡くなってから3か月以内に申述すること。(ちなみにこの3か月は延期できますがこれも家庭裁判所への申述が必要)

 

 

~石川県金沢市の司法書士が繋ぐ相続ブログ~

 

 

相続登記と時効取得

2021年6月30日

昨年末、「なかのと相続相談室」 

 

からのお問い合わせで相続登記を受任しました。

 

「なかのと相続相談室」は私のふるさと中能登で行っている相続相談です。

 

そのご依頼自体は、最近亡くなったお父様名義の不動産の相続登記をしてほしいというもの。相続人も子ども3名というシンプルなものでした。

 

しかし、不動産を調査する中で、1番重要なご自宅の敷地が他人名義であったことが判明。

 

他人というのは言い過ぎかもしれません。相続関係にない親族。互いに会ったことも、存在すら知らなかった関係でした。

 

行ったこともない山林とかなら無視するということも考えられますが、

 

そこはご自宅の敷地です。端とかでなく底地そのものです。

 

というわけで、ご依頼は、その他人さんから不動産を取得する登記へと発展。

 

名目は「時効取得」です。

 

長年、そこを自身のものと思って所有してきたことから、所有権を取得しましたということ。

 

市役所すらそのことを把握せず、依頼者さんの祖父・お父様に固定資産税を課してきましたし、何より自宅の底地ですから、時効取得が認められることはほぼ明らかです。

 

戸籍の調査から、その他人さんも既に亡くなっており、その子、孫のご協力が必要なケースです。

 

まずは相続人の皆様へ連絡。戸籍の附票から住所は分かるのでお手紙を書きます。

 

依頼者さんも相続を機にこういう事情を初めて知ったこと、時効取得で名義を変えたいことを丁寧に説明します。

 

この方たちは2代前から石川県を離れており思い入れのある地では既になくなっています。

 

自分たちのものとして固定資産税を請求されても困るという事情もありますが、何より依頼者さんの事情をよくご理解くださりました。

 

子どもにあたる方が音頭を取って下さり、お孫さんたち(甥っ子、姪っ子)さんに協力してあげるようご尽力して頂きました。

 

相続人の皆様がご協力頂けるという確答を頂けたので、改めて押印書類(登記原因証明情報と委任状)を郵送し、ご返送を待ちます。

 

この登記には皆さんの印鑑証明が必要で、平日に市役所等で印鑑証明を取ってきて頂くというご負担をおかけします。皆さんには何のメリットもないのにです。

 

相続人の皆さんからご返送頂けると、いよいよ登記申請です。

 

が、ここでも1つハードルがあります。

 

今回のように権利証がない場合は、事前通知という制度を利用せざるを得ません。

 

事前通知というのは、この登記が申請されているけど間違いない?という問い合わせが法務局から届くのです。

 

それに答えて法務局に返送するんですが、別に返信用封筒がついている訳ではありません。しかも2週間以内という制限もあります。

 

そこで、例えば「6月10日に申請します。法務局から通知が届くので、回答して(署名・押印)して返送してください」と添えて、法務局宛ての封筒も送っておきます。

 

これらのハードルを全て超えて漸く登記が完了します。

 

その登記が先週末完了し、ご依頼者さんに新しい登記識別情報(権利証)をお渡しすることができました。

 

そのあとのお礼がたいへん嬉しかったです。

 

弊所に依頼して本当によかったという内容でした。

 

ご協力くださった皆様にお礼がしたいけどどうしたらいいでしょう?という質問もありました。

 

とかく権利が強調される時代ですが、

 

困ってるんだから協力してあげよう、協力してくださったんだからお礼がしたい。

 

良心と良心が触れ合うように思えて、とても気持ちのいい仕事になりました。

 

不思議なもので、

 

明日、別件で「時効取得」のご相談を受けます。内容はほぼ同じようです。別の司法書士事務所さんからのご紹介。

 

続くものですね。

 

 

 

 

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