遺留分侵害請求権を行使するとき、されたとき

2023年3月8日

民法にこういう条文があります(1046条)

「遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。」

 

いわゆる遺留分侵害請求権についての条文で、かつては遺留分減殺請求権と呼ばれたものです。

 

最近、公正証書遺言を基に相続登記のご依頼を受けました。同時に遺留分侵害請求権についての相談を受けました。

 

遺留分とは遺言があっても最低限相続人がもらえる権利のことです。法定相続分の半分と思ってもらっていいと思います。

 

減殺請求権から文言が変わっただけでなく、遺留分侵害額に相当する「金銭の」支払を請求すると明記されました。

 

依頼者さんはこの遺留分を別の相続人の方から請求されたわけですね。

 

これは相続人の権利ですので、請求されれば、支払うという結論になります。

 

相談者さんもそのお気持ちです。

 

とはいえ、後のトラブルにならないように合意書を交わしておくことをお勧めしました。

 

相続登記が完了した後で、その合意書を交わす際に同席させて頂きました。

 

お互い安心されたのではないでしょうか?

 

 

この遺留分についてポイントがあります。

 

まずは、遺言を作成する場合。

 

遺留分侵害請求を機に相続人間で争いにならないように、遺言の中でこの権利を行使しないでいいように、遺産の分け方を決めるということ。

 

とはいえ、遺産の性質によっては(不動産がほとんど等)、なかなか難しいこともありますね。請求された場合に備えて受取人を相続する人とする保険をかけるという方法もあります。

 

それも難しいときは、どうしてそういう不平等とみえるような分け方をしたのか、付言事項として記載しておく。メッセージですね。

 

にもかかわらず、請求されることもあります。

 

こういう場合、ついつい請求する側を悪者にしてしまう傾向があります。

 

でも、相続手続き、遺産分割協議をこれまで多数経験してきた立場からすれば、他の相続人側に立ってみるって大事だなって思うんですよね。

 

経済的に、あるいは気持ち的に余裕があるときばかりではありません。

 

たまたま相続のタイミングがお金が要りようのタイミングと重なることだってあると思います。

 

本当は兄弟にこんなこと請求したくないけど、たまたま仕事がうまくいっていないときとか、子どもにお金がかかる時期だったとか、あるんですよね。

 

そういうところが想像できたら、決着が見えてくるんじゃないでしょうか?

 

そして遺留分侵害請求権を行使された場合は、決着時に合意書を交わすということですね。

 

これらがポイントでしょうか?

 

 

~石川県金沢市の司法書士が繋ぐ相続ブログ~

 

 

除籍1枚と廃棄証明だけの相続登記(曾祖父の相続)

2023年3月1日

「〇〇さんの相続登記完了しました」と、司法書士くん。

 

「勝った!」

 

司法書士くんと目が合って大笑いする。

 

昨年末受任した相続登記の件だ。

 

相談を受けたとき、

「お恥ずかしながら、ずっと相続登記をしていなくて。近いうち相続登記って義務化されるんでしょう? 息子たちには迷惑かけたくないんです。」と。

 

まずは、戸籍調査と名寄帳からの登記簿調査。

 

依頼者さんご自身が80代。お父様は太平洋戦争で亡くなり、未成年で戸主になっていた。登記簿を見ると、その亡くなったお父様名義のものと、曽祖父様のもの。

 

なんと取得できた除籍謄本はお父様戸主時代の1枚だけ。祖父様のもの、曽祖父様のものは1枚も取得できず。

 

理由は古すぎるということもあるが、この自治体の庁舎は火災にあったため取得できない部分があるのだ。

 

依頼者さんは早くから家督相続しているので、お父様の相続登記は簡単にできた。取得した除籍謄本だけで。

 

問題は、曽祖父様の相続登記。あまりに戸籍がないのだ。つまり、祖父様戸主時代の戸籍はゼロ、曽祖父様戸主時代の戸籍もゼロ。

 

ただし、お父様戸主時代のたった1枚の除籍謄本に曾祖母様の欄があり、夫である曽祖父様がいつなくなったかの記載があった。

 

戸籍が取得できない以上、市役所が出す廃棄証明書を付けるは当然。古すぎて住所記載もないので名寄帳も付ける。相続可能であることの見解を示した上申書も添える。

 

除籍等が一部滅失していることにより謄本を提供できないときは、残存する戸籍等プラス廃棄証明書を付ければ相続登記をしてよいという先例の存在(平成28年3月11日)。

 

さあ、これだけで登記は通るのか?

 

正直だめかも?と思いながら申請(法務局側でこれとこれを補って的な指示がくればいいなとおもいながら)。

 

案の定、数日後、法務局から連絡。司法書士くんが聴く。

 

長く話をした後、受話器を置いて私に説明する司法書士くん。

「これでは登記通せません。他に相続人がいる可能性がゼロではないですから。他の先生は相続人を確定する裁判をしているそうです。」と。

 

申請時点で自信がなかったので、渋々取り下げる。

 

数日後、戻ってきた戸籍とにらめっこする私。たぶん、かなりいらいら。

 

えっ? いや、私が見る限り他に相続人がいる可能性はゼロだろ。相続人を確定する裁判って何? 登記官を納得させられる書面を提出できないのに、裁判官を納得させられる書面(証拠)って何? そもそもその裁判って司法書士は代理人になれないよね? 今回は田舎の山林で評価額が低く、訴訟費用をかけるなんて正直あり得ない。

 

最初からそうすればよかったのだが、事務所にある相続の書籍をデスクに積み上げる。登記できるでしょと自信が湧いてきた。

 

そして、改めて、上申書を作成する。

 

この間、廃棄証明書を出した市役所に電話。廃棄証明書に戸主氏名〇〇(曾祖父様や祖父様)とあるけど、市役所としてはこれって戸主であったことも証明しているの?と(廃棄したということしか証明していないと私は思っていた。)

 

「はい、その通りです。」

 

・・・・・・・・・・

 

・・・・・・・・・

 

「えっ? そうなんですか」と驚く私。(今でもあまり信じていない)

 

その旨も上申書に加える。曾祖父様と祖父様様は戸主であって、本籍地も同じであるから曾祖父様→祖父様→お父様→依頼者さんと家督相続しているはず、と。残存する戸籍から祖父様が唯一の第一種法定家督相続人なんだから登記してよいはず、と。

 

申請後、やはり法務局から連絡。

 

今回は前回と若干トーンが違う。法務局としても昨今の傾向からできるだけ相続登記をする流れにあります。登記官によっては登記できると判断する登記官もいると思います。私(支局の登記官)としては、本局の意見も聴いてみたいので時間を下さいとのこと。

 

1週間ほどの後。

 

登記しますという回答の後、先の登記完了メール。

 

「勝った!!」

 

登記官にではないですよ。何かに勝ったような気がしました。

 

 

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